歯周病とアルツハイマー病、どこまで分かった?──「関連は示唆、因果は未確定」の線引き
「歯周病だと認知症になるって本当ですか?」と聞かれて答えに詰まったことはありませんか。AD患者の脳から検出されたジンジパイン、疫学調査での関連、そして因果を支持しなかった遺伝学的解析まで、誇張せずに説明するための線引きを整理します。
今回参考にしたのは、アルツハイマー病(AD)患者の脳から P. gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス、歯周病の主要な原因菌)由来の酵素が検出されたと報告した Dominy ら(2019年)の研究です。
「歯周病だと認知症になるって本当ですか?」と患者さんに聞かれて、答えに詰まったことはありませんか? ニュースになりやすいテーマだからこそ、どこまでが分かっていて、どこからが未確定なのかを整理しておきたいところです。
何が分かっているのか
Dominy らの研究では、アルツハイマー病患者の脳組織からジンジパイン(P. gingivalis が産生するタンパク質分解酵素)が検出され、その量がタウやユビキチンといった病理指標と相関していたと報告されました。
さらに、マウスに経口的に P. gingivalis を感染させると脳への定着が起こり、アミロイドβの産生が増えたことも示されています。口の中の菌が、脳の変化に関わりうるという仮説を強く後押しした報告といえます。
疫学のほうでも、米国の大規模調査を長期追跡した Beydoun ら(2020年)で、歯周病の臨床所見や歯周病原菌への抗体と、その後の認知症・アルツハイマー病の発症に関連が見られたと報告されています。
ただし、因果とは言い切れない
ここからが大事なところです。観察研究で「関連がある」ことと、「歯周病がアルツハイマー病を起こす」ことは同じではありません。
歯周病も認知症も、喫煙・糖尿病・社会経済状況・加齢といった共通の背景因子を持っています。さらに、認知機能が落ちるとセルフケアが難しくなるため、逆方向(認知症が歯周病を悪化させる)の可能性も常に残ります。
一方で、遺伝的変異を道具として因果を検証するメンデルランダム化解析(Sun ら、2020年)では、歯周炎がアルツハイマー病の原因であるという結論は支持されませんでした。
つまり現時点では、「関連は繰り返し示唆されているが、因果は未確定」というのが、いちばん正確な言い方なのではないでしょうか。
患者さんにどう伝えるか
「歯周病を治せば認知症を防げます」とは、まだ言えません。でも、こう伝えることはできそうです。
- 歯周病と認知症には関連が報告されており、研究が進んでいる
- 因果関係はまだ結論が出ていない
- ただし歯周病は、それ自体が歯を失う原因であり、治療する理由は十分にある
過剰な期待を持たせずに、歯周治療の価値をきちんと伝える。このバランスが、DHの説明力の見せどころかもしれません。
それでは、また次回〜🦷✨
参考文献
Dominy SS, Lynch C, Ermini F, et al. Porphyromonas gingivalis in Alzheimer's disease brains: evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors. Sci Adv. 2019;5(1):eaau3333.(AD脳からのジンジパイン検出と動物実験での機序を支える)
Beydoun MA, Beydoun HA, Hossain S, et al. Clinical and bacterial markers of periodontitis and their association with incident all-cause and Alzheimer's disease dementia in a large national survey. J Alzheimers Dis. 2020;75(1):157-172.(大規模疫学調査での関連を支える)
Sun YQ, Richmond RC, Chen Y, Mai XM. Mixed evidence for the relationship between periodontitis and Alzheimer's disease: a bidirectional Mendelian randomization study. PLoS One. 2020;15(1):e0228206.(遺伝学的解析では因果が支持されないことを支える)