なぜ「できる人ほど自信がない」の?──歯科衛生士のインポスター現象と、自己評価のゆがみ
手技も対応もこなせるのに「私で大丈夫かな」と不安になっていませんか?できる人ほど自信を失う心理の仕組みを、研究と一緒に考えます。
今回参考にしたのは、専門職に広く見られる「インポスター現象(imposter phenomenon)」をめぐる心理学の研究です。これは、客観的には十分に力があるのに「自分なんてまだまだ」「いつか実力不足がバレる」と感じてしまう状態を扱っています。
臨床に出て数年。手技も患者対応もこなせるようになったのに、ふとした瞬間に「私で大丈夫なのかな」「先輩みたいにできていない」と不安になること、ありませんか?
私自身も、ベテランの先輩と自分を比べては落ち込み、褒められても「たまたまうまくいっただけ」と受け流していた時期がありました。
なぜ「できる人ほど自信がない」が起きるのか
まず知っておきたいのが、インポスター現象は「能力が低い人」ではなく、むしろ真面目で意欲の高い人に起きやすいとされている点です。
もともとは Clance と Imes(1978)が、優秀な女性たちが自分の成功を「運」や「他人を欺いた結果」と捉えてしまう傾向を報告したのが始まりです。
その後の研究では、性別を問わず幅広い職種で見られ、医療系の専門職でも報告が多いことが知られています。
背景にある仕組みとして、よく挙げられるのが次の流れです。
・成功しても「自分の実力ではなく外的要因のおかげ」と原因を帰属する
・失敗すると「やっぱり自分の力不足」と内的要因に帰属する
・この非対称な解釈が繰り返されることで、成果が積み上がっても自己評価が更新されにくい
つまり、経験を積むほど「知らないこと」も見えてくるため、成長しているのに自信は逆に下がって感じられる、ということが起こりうるわけです。
「先輩との差」の正体を分けて考える
一方で、不安のすべてが思い込みかというと、そうとも言い切れません。ここで分けて考えたいのが、「実際のスキル差」と「自己評価のゆがみ」です。
関連してよく引かれるのが、ダニング=クルーガー効果(Kruger & Dunning, 1999)の議論です。初学者は自分の不足に気づきにくく自己評価が高くなりがちで、逆に習熟が進むほど「自分はまだ分かっていない」と評価が慎重になる、という傾向が示されています。
これを踏まえると、「先輩に比べて自信が持てない」という感覚は、力が足りない証拠というより、むしろ自分の課題が見えるようになってきたサインとも読み替えられそうです。
ただし、これは研究の知見をキャリアの悩みに当てはめた解釈であり、個々の状況をそのまま説明するものではありません。実際のスキル不足がある場合は、そこは具体的な練習で埋めていく必要があります。
自己評価のゆがみと、どう付き合う?
では、明日からできることは何でしょうか。完全になくすより、「付き合い方を変える」という発想が現実的です。
- 成功の理由を書き出す → うまくいった症例を「なぜできたか」具体的に言語化し、運ではなく行動として記録する
- 比較対象をずらす → ベテランの「今」ではなく、1年前の自分と比べて変化を確認する
- 不足は範囲を限定する → 「全部ダメ」ではなく「この処置のこの場面が苦手」と具体化し、練習できる単位に分ける
こうした記録や振り返り(reflective practice)は、ゆがんだ自己評価を少しずつ事実で上書きしていくのに役立つと考えられます。
まとめ:不安を「成長の手がかり」に変える
「自信が持てない」という感覚は、消すべき欠点というより、真剣に向き合っているからこそ生まれる副産物なのかもしれません。
- まず → 「自分なんて」と思った場面を1つメモする
- 次に → そのとき実際にできていたことを1つ書き足す
- そして → 苦手の正体を「処置のどの場面か」まで具体化する
不安をそのまま信じ込むのでも、無理に打ち消すのでもなく、「これは自己評価のゆがみかもしれない」と一歩引いて眺める。その視点を持っておくだけで、先輩と比べて落ち込む日も、少し楽になるのではないでしょうか。
自信は、ある日突然湧いてくるものではなく、小さな事実の積み重ねで少しずつ更新されていくもの。今日できたことを、ひとつずつ認めていきたいですね。
参考:Pauline R. Clance & Suzanne A. Imes「The Imposter Phenomenon in High Achieving Women」Psychotherapy: Theory, Research & Practice(1978)/ Justin Kruger & David Dunning「Unskilled and Unaware of It」Journal of Personality and Social Psychology(1999)
それでは、また次回〜🦷✨