「広く浅く」か「狭く深く」か?──歯科衛生士の専門性の積み方を考える
何を強みにすればいいのか分からないまま年数だけ過ぎていませんか?専門性をどう積むかを、エビデンスと一緒に考えます。
今回参考にしたのは、専門職の能力形成を扱った「deliberate practice(意図的な練習)」や「T字型人材」をめぐる議論です。これらは、ある分野の熟達がどう積み上がっていくのかを検討しています。
臨床に出て数年。日々の業務はこなせるようになったけれど、「自分の強みって何だろう」「このまま広く浅くでいいのかな」と立ち止まったこと、ありませんか?
私自身も、目の前の業務を回すことで精一杯で、キャリアの方向を考える余裕がなかった時期がありました。
「経験年数=熟達」とは限らない
まず押さえておきたいのが、ただ年数を重ねるだけでは専門性は伸び止まりやすいという指摘です。
これは deliberate practice(意図的な練習)の研究で繰り返し示されてきた考え方で、漫然と同じ作業を続けるのではなく、自分の弱点を意識し、フィードバックを受けながら少し難しい課題に挑むことで熟達が進む、とされています。
つまり、「10年やっている」ことそのものより、「その10年で何を意識して磨いたか」のほうが効いてくる、ということになります。
逆に言えば、同じ処置を流れ作業でこなしているだけだと、年数のわりに伸びにくい可能性が考えられます。
「広く浅く」も土台として無駄ではない
一方で、「狭く深く」だけが正解かというと、そうとも言い切れません。
ここで参考になるのが、T字型人材という考え方です。横棒が「広く浅い知識(全体を見渡す力)」、縦棒が「狭く深い専門性」を表します。
歯科衛生士でいえば、横棒は歯周・カリオロジー・全身疾患との関連・患者コミュニケーションなどを一通り理解していること。縦棒は、その中で「これは人に教えられる」と言える得意分野を持っていることに当たります。
横棒(広さ)があるからこそ、縦棒(深さ)の専門性を全体の中で適切に使える、と整理できそうです。新人期に「広く浅く」を経験することは、後で深める分野を選ぶための土台になっている、とも考えられます。
どうやって「深める分野」を選ぶ?
では、何を縦棒にすればいいのか。ここに唯一の正解はありませんが、選ぶときの視点は整理できます。
- 興味が続くか → 学び続けても苦にならないテーマか
- 現場で需要があるか → 自院や地域で求められている領域か(歯周治療、メインテナンス、訪問、予防、TBIなど)
- 伸びしろがあるか → まだ自分が弱い、けれど磨けば差がつく領域か
このうち複数が重なる部分を選ぶと、続けやすく、かつ評価にもつながりやすいのではないでしょうか。
なお、認定資格などの「形」から入るのも一つの方法ですが、資格はゴールではなく、深める過程の通過点として捉えておくと、取得後に学びが止まりにくいように思います。
まとめ:明日からできる小さな一歩
専門性は、大きな決断を一度するより、小さな積み重ねから形になっていきます。
- まず → 今いちばん興味のある領域を1つ書き出してみる
- 次に → その領域で「自分が苦手なこと」を1つ特定する
- そして → 次の症例でその1点を意識し、終わったら振り返る(reflective practice)
「広く浅く」も「狭く深く」も、対立するものではなく、順番とバランスの問題として捉えると、今の自分が何をすべきかが少し見えやすくなるのではないでしょうか。
キャリアの地図は、一度に全部描く必要はありません。今いる場所から、次の一歩を決めることから始めていきたいですね。
参考文献
Ericsson KA, Krampe RT, Tesch-Römer C. The role of deliberate practice in the acquisition of expert performance. Psychol Rev. 1993;100(3):363-406.
それでは、また次回〜🦷✨