根面う蝕の予防と管理
高齢化社会で増加する根面う蝕の予防戦略を解説します。
今回は、高齢者の根面う蝕(歯の根の面にできるむし歯)への向き合い方について整理します。高齢化と歯肉退縮で根面が露出する人が増え、「これまでむし歯ゼロだった人が、急に根元からやられる」——そんなケースが目立ってきました。長年しっかりケアしてきた高齢の患者さんに新しいむし歯を見つけて、「なぜ今になって?」と感じたこと、ありませんか?
根面は、そもそも酸に弱い
歯肉が下がって露出する根面は、エナメル質ではなく象牙質(+セメント質)で覆われています。この2つは、酸への耐性がまったく違います。エナメル質が溶け始める「臨界pH」は約5.5。一方、根面(象牙質)は約6.0〜6.2と、より中性に近い、あまり酸性でない状態でも脱灰が始まるとされています。つまり、同じ食生活・同じプラーク量でも、根面が露出しているだけでう蝕リスクが一段上がるということ。しかも象牙質はやわらかく、いったん始まると横に広がりやすく、進行も速い傾向があります。「昔はむし歯にならなかったのに」という患者さんの実感は、口腔環境の変化として理にかなっているのではないでしょうか。
ただし、防げないわけではない
ここで前向きに捉えたいのが、高濃度フッ化物が根面う蝕の予防・進行抑制に有効という点です。複数のランダム化比較試験で、5000ppmフッ化物配合の歯磨剤は、通常濃度(1450ppm前後)に比べて根面う蝕の抑制・再石灰化に優れることが示されています。たとえばある試験では、5000ppm群は使用8か月で停止(再石灰化して硬くなった)病変が約3倍多かったと報告されています。※5000ppm製剤は医薬品扱いで、日本では処方・適応の確認が必要な点に注意。
一方で、高齢の患者さんは手の器用さが落ちていたり、服薬や加齢の影響で口腔乾燥(唾液が減ると再石灰化力・緩衝能が下がる)を伴っていたりすることも少なくありません。フッ化物だけに頼るのではなく、フッ化物・プラーク管理・食生活・唾液をワンセットで考えたいところです。
まとめ:どう防ぐ?
チェアサイドでの提案は、こう組み立てられます。
- 根面が露出している患者さんには → 高濃度フッ化物(歯磨剤・洗口・塗布)の活用を提案
- 同時にチェックしたいのは → 間食・甘い飲み物の“回数”(量より頻度)、内服薬や口呼吸による口腔乾燥
- 清掃指導は → 握力・器用さに合わせて。太柄・電動ブラシ、タフト、歯間ブラシなど“その人が続けられる道具”を一緒に選ぶ
- 見つけ方のコツ → 根面のわずかな着色・ザラつき・くぼみは初期サイン。露出根面は毎回さっと触れて確認する
患者さんへの声かけ例としては、「歯ぐきが下がって出てきた根っこの部分は、いつもの歯より酸に弱いんです。だからフッ素をしっかり効かせて、甘いものは“回数”を意識しましょうね」と、理由とセットで伝えると納得が得られやすくなります。
DHにできるのは、根面の特性を“見える化”して、その人の生活と器用さに合った予防を一緒に設計すること。根面の弱点を知っておくと、高齢期の予防提案がぐっと具体的になるのではないでしょうか。
参考文献
Srinivasan M, Schimmel M, Riesen M, et al. High-fluoride toothpaste: a multicenter randomized controlled trial in adults. Community Dent Oral Epidemiol. 2014;42.(5000ppm高濃度フッ化物歯磨剤が根面う蝕を有意に改善したRCT)
Wierichs RJ, Meyer-Lueckel H. Systematic review on noninvasive treatment of root caries lesions. J Dent Res. 2015;94.(高濃度フッ化物等による根面う蝕の非侵襲的な抑制を裏づける系統的レビュー)
それでは、また次回〜🦷✨